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【研究開発:床次眞司】内部・外部被ばく線量を現場で同時測定!弘前大学発の「一体型測定器」が作業員の安全を守る

2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所(以下、福島原発)の事故をきっかけに、放射性物質による汚染が想定される地域での緊急作業時における、放射線量の正確な測定と、現場作業員の安全確保の重要性が明らかになった。福島原発の事故以前は、放射線量を現場で実測する重要性が認識されていなかったことから、内部被ばく線量(放射性物質を体内に取り込むことによる被ばく)の測定器は全て大型の据え置き型であり可搬性に乏しく、現場で即座に使用することが極めて困難であった。

この状況を改善するため、国立大学法人弘前大学 被ばく医療総合研究所の床次眞司所長(役職はインタビュー当時のもの)らは、内部・外部被ばく線量を同時に測定するための一体型測定器(以下、一体型測定器)を競輪とオートレースの補助事業(※1)の活用により開発し、社会実装に挑戦し続けている。

※1:公益財団法人JKAは、競輪とオートレースの売上金の一部で、機械振興及び公益事業振興の事業に対して「競輪とオートレースの補助事業」として様々な支援を行っている。

【写真】 (左から)弘前大学 被ばく医療総合研究所 大森康孝准教授、床次眞司所長(兼教授)、細田正洋教授
(中央左の機械)補助事業で開発した「一体型測定器」
(中央右の機械)補助事業以降に改良した「一体型測定器」

一体型測定器を開発するきっかけ、補助事業に応募した経緯を教えてください。

床次所長:
弘前大学被ばく医療総合研究所では、2011年の福島原発の事故以前から天然に存在する放射性物質からの被ばくに関する研究を長年続けてきた。しかし、福島原発の事故をきっかけに、放射性物質による汚染が想定される地域で緊急作業にあたる作業員の安全を確保するために、被ばくの状況を可視化する方法を研究所内で検討し始めた。
従来の放射線測定器は据え置き型で非常に大型であり、持ち運びが困難であった。緊急時には避難者や、警察、消防、自衛隊などの緊急作業員が現場を動き回る。特定の地点に固定された大型の放射線測定器では、実際に移動している人々のリアルタイムな被ばく線量を正確に測定できないという問題があった。 そこで、外部被ばく線量(体外にある放射線にさらされることによる被ばく)と内部被ばく線量の両方を同時に、移動しながら測定できる一体型測定器の開発に着手した。 補助事業を実施した2020年以前は、小型の測定器で外部被ばく線量・内部被ばく線量の両方を測定するという発想が、世間にはなかった。このような背景がある中で、小型化・一体化の実現に向けて最適な部品を選定し、世界で初めて一体型測定器というシステムを開発できたことが、補助事業の大きな成果である。

開発した一体型測定器の概要と、導入によるメリットを教えてください。

床次所長:
一体型測定器は、空気中のγ線量率(外部被ばく線量)と、α線(内部被ばく線量)に起因する放射能濃度の両方を同時に測定できるシステムである。内部被ばく線量の測定には、ポンプで一体型測定器周囲の空気を吸引し、フィルターに吸着したα線を小型のシリコン半導体検出器で測定する仕組みを採用している。さらに、外部からの放射線を測る別のセンサーを統合することで、外部被ばくの状況も並行して評価する。
一体型測定器の開発は、大きく2つの段階を経ている。
第一段階である補助事業における開発研究では、これまで別々であった外部被ばく線量の測定器と内部被ばく線量の測定器を、一つのコンパクトな装置に統合して総重量10kg以下という軽量化に成功した。 一方で、補助事業の段階では天然の放射線と、人工の放射線を識別する精度に課題が残っていた。天然の放射線は濃度が大気中で変化しており、原子力施設等によって放出された人工の放射線と識別できなければ、天然の放射線の濃度上昇を事故による異常と誤認してしまう可能性があり、両者の正確な識別が課題であった。

【写真】 補助事業で開発した一体型測定器

第二段階である補助事業実施後の一体型測定器の開発では、天然と人工の放射線の識別を目指している。2026年時点で実用化の目処が立っている最新の一体型測定器では、微粒子をフィルターの表面付近で確実にキャッチできるように改良が加えられ、エネルギーの減衰なくα線(内部被ばく線量)をシャープに捉える。これにより天然と人工の放射性物質のクリアな識別に成功している。 さらに、専用のバッテリーによる駆動を実現して、総重量は当初の目標を大きく上回る1.8kgにまで軽量化し、可搬性を向上させている。これにより、現場の作業員の安全と利便性を飛躍的に高める進化を遂げている。

【写真】 補助事業以降に改良した一体型測定器

補助事業は、どのように開発研究の力になったのでしょうか。

床次所長:
補助事業の申請をきっかけに、研究者としての意識も大きく変わった。それまでは我々は研究者なので、論文を書くことが成果という感覚だった。しかし、補助事業の申請には社会的なニーズを明確に示す必要があり、その過程で「自分たちの技術が、誰の、どんな課題を解決できるのか」について深く考えるようになった。これがきっかけとなり、基礎研究にとどまらず、製品化や社会実装を強く意識するようになった。 それまで長年扱ってきた天然の放射性物質の基礎研究は、ビジネスに直結するものではなかった。しかし、補助事業への申請・開発研究を通じて福島の原発事故のような緊急時に、一体型測定器があれば確実に人の役に立つという視点を得た。また、製品化に向けて、特許を確実に押さえるために論文発表を控えるといったビジネス戦略的な判断もできるようになり、研究に対する取り組み方や意思決定が根底から変わる大きなきっかけとなった。

【写真】 (左から)インタビューに応じる大森康孝准教授、床次眞司所長、細田正洋教授

補助事業における一体型測定器の開発研究は、先生自身のキャリアや考え方にどのような影響を与えましたか。

床次所長:
非常に大きな意識の変化をもたらした。これまで学会等で企業のブースに行っても製品をただ眺めるだけだったが、補助事業を機に製品開発の視点を持つようになり、企業と「こんなことはできませんか?」と具体的な製品開発について話をするようになった。


また、研究室の教え子たちのキャリアパスにも波及した。補助事業の研究への参画で得た経験を活かし、床次所長と共同研究を行う測定機器メーカーへの就職に繋がったという。

一体型測定器の今後の社会実装の展望をお聞かせください

床次所長:
まだ販売開始には至っていないが、受注生産に対応する準備はできており、製品開発は着実に進んでいる。一体型測定器の社会実装に対するニーズは大きく、興味を持ってくれている企業も複数出てきている。
国内における主なニーズとしては、プルトニウムをはじめとする放射性物質を扱う再処理施設や、廃炉作業現場での被ばく管理が挙げられる。現在、廃炉作業において、内部被ばく線量を正確に評価できる装置は不足しており、一体型測定器が貢献できると期待されている。
また、今までは見過ごされてきた放射線リスクの可視化として、海外に数多く点在するレアアース鉱山も大きな市場と捉えている。レアアース採掘と放射線リスクは一般的に結びつきにくいが、採掘・精錬する過程では天然の放射性物質が濃縮された放射性残渣が必ず発生する。現在、海外に拠点を置く大規模な鉱業会社とも製品開発に関する情報交換を進めており、作業員の被ばくリスク管理に重要な役割を果たすことが期待されている。
海外の途上国に対する技術支援としての普及も目指している。アジアやアフリカ、オセアニア等では、高自然放射線地域や資源採掘に伴う被ばくリスクが高い地域があるにもかかわらず、研究設備が十分に整っていない現状がある。そこで、安価で持ち運びが可能な一体型測定器を、現地の研究者が自国のリスク管理や被ばく研究を進めるためのツールとして提供したいと考えている。
放射線の測定技術は医療分野へも広がりを見せている。近年、人工の放射性物質を体内に投与してがん細胞を直接叩く最先端の治療法が注目されているが、製造・取り扱い過程での放射線モニタリング技術はまだ確立されていない。現在、この問題に対して補助事業の複数年研究(※2)を活用して取り組みを進めており、成果が見えつつある。
このように社会課題を解決し、人々のために技術を役立てていくことが今後の大きな目標である。

(※2) 機械振興に資する「2年間にわたる継続した研究」に関する補助事業

最後に、若手研究者へ向けたメッセージをお願いします。

床次所長:
現在、日本の放射線機器開発の技術力は、残念ながら海外に比べて停滞気味にある。一体型測定器の開発にあたり、海外の工場を視察したことがあったが、日本は技術力で後れを取っていることに気づかされた。何十年も同じ測定器が使われ続け、新しい技術開発がなかなか進んでいない現状に、強い危機感を抱いている。若い人たちが日本の技術力を牽引していってほしいと願っている。

補助事業番号:2020M-167
補助事業名:2020年度 内部・外部被ばく線量を同時に測定するための一体型測定器の開発 補助事業

補助事業番号:2024M-524
補助事業名:2024年度 標的アイソトープ治療に用いる人工アルファ線放出核種の高感度迅速検知システムの開発 補助事業